<式辞>校長
厳しい寒さの中にも梅のつぼみが膨らみ始め、春の訪れを感じさせられる季節となりました。
少年の日を迎えられた2年生の皆さん、おめでとうございます。
少年の日というは、暦の上で冬が極まり春の気配が立ち始める立春の日に、昔の元服にならい、皆さんの成長を祝うとともに、これからの人生をよりたくましく生きていけるように、皆さんを励ます日です。今までの自分の生活を見つめ直し、今まで自分を支えてくださった方々に改めて感謝し、スローガンである「自覚・立志・健康」について考え、自分の将来に向けて誓いを新たにしてほしいと思います。
さて、今年の少年の日を祝うこの少年式は例年と違う点が二つあります。一つは皆さんご存じのように、新型コロナウィルス感染症対策のために保護者や来賓の方を招待せず、また寒さ対策のためにこの玉の和で行う点です。さて、もう一つは分かるでしょうか。それは2月3日に行うことです。今までも立春の2月4日が土曜日や日曜日の休日であったため、2月3日や2日に行ったことがありますが、今年の2月4日は休日ではありません。では、どうしてでしょう。それは今年の立春が2月4日ではなく、2月3日なのです。科学的に言うと、立春は「太陽黄経が315度になった瞬間が属する日」で、今年はその瞬間が今日2月3日の23時59分。いつもの2月4日の1分前です。これは124年ぶりだそうです。
このように、今まで当たり前であったことが実は当たり前とは限りません。将来、人工知能AIの発達により半数近くの仕事が自動化され、皆さんの多くは今は存在していない職業に就くようになるかもしれません。このような予測できない未来に対応するためには、社会の変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、一人一人が自らの可能性を最大限に発揮し、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが重要です。
このことに関係する、ヨーロッパに伝わる「3人のレンガ職人」のお話を紹介します。
旅人がある町を歩いていると、レンガを積んでいる職人が3人いるのを見かけた。
旅人は最初の職人に「何をしているのか。」と尋ねた。すると最初の職人は、「見ればわかるだろう。親方の指示で、レンガを積んでいるのだ。」とぶっきらぼうに答えた。
旅人は二人目の職人にも尋ねた。二人目の職人は、「収入を得るためだ。レンガ1個につき幾らと、がんばった分だけお金がもらえるからね。」と答えた。
旅人は三人目の職人にも同じ質問をしてみた。三人目の職人は、「皆が集まる教会を作っているのさ。私はみんなの幸せのためにレンガを積んでいるんだよ。」と答えた。
という話です。先日皆さんは職場体験学習をしましたが、自分は何人目のレンガ職人の気持ちで働いたでしょうか。また、普段の学習や部活動はどうでしょうか。
見た目は同じ仕事をしていても、それぞれの仕事に対する目的や意識の違いが、仕事の成果やその人の将来に影響してくると思います。レンガを積む事自体を目的だと思っていやいや仕事をする職人よりも、お金を得ることを目的だと思って仕事をしている職人の方が、頑張って仕事をしていることでしょう。そして、みんなの幸せのために教会を建てているんだと意識してレンガを積んでいる職人の方が、気持ちのこもった丁寧な仕事をして自分も幸せを感じていることでしょう。
今日、少年の日を迎えるにあたって、皆さんは、これまでの自分を振り返り、これから何をすべきか、どんな人を目指すか、見つめ直していることと思います。今やっていること、これから取り組もうとしていることに対して、どんな目的や意識で向き合いますか?普段の学習もそう、部活動もそう、将来の仕事に対してもそうです。「やらされてやる」のではなく、何のためにやるのかしっかりとした目的をもち、さらに、やることの価値や意義を意識して取り組んでほしいと思います。
2年生の皆さん、君たちの可能性は、はてしなく広がっています。皆さんが、予測できない未来に対して、受け身ではなく、目的や意識をもって主体的に向き合い、自らの人生を切り開いていくことを願って、式辞といたします。
<お祝いの言葉>1・3年生代表
梅の蕾が春を告げる季節となりました。この立春のよき日に、少年式を迎えられた二年生のみなさん、おめでとうございます。みなさんの凛とした表情から、大人へと一歩近づいたたくましさを感じ、先輩としてとてもうれしく思います。
少年式は、これまでの自分を見直し、これからの自分を更に成長させるよい機会だと思います。いままでの成功や失敗を生かして、毎日を大切に、ひたむきに歩んでください。
二か月後にはみなさんは最高学年となり、学校全体を引っ張っていく立場となります。時には大変なこともあるかもしれません。しかし、みなさんは今までもこれからも、一人で生きていくわけではありません。家族や友人など、頼れる人が必ずいます。
「自立」とは、他人と支え合える用意ができているということです。周囲の人と助け合いながら、感謝の気持ちを忘れず、しっかりと歩んでいってください。
みなさんが今日を節目とし、夢と目標に向かって前進することをお祈りし、お祝いの言葉とします。
<誓いの言葉>2年生代表
ほのかに香る梅の香に、春の柔らかな気配を感じる今日、私たちのために心温まる少年式を挙行して頂きありがとうございます。
私たちは、「和す」「磨く」「結ぶ」の校訓のもと、玉川の美しい自然に抱かれながら、毎日の授業や季節ごとの行事に意欲的に取り組み、縦に横にと確かな絆を紡ぎながら、充実した学校生活を送ってまいりました。
しかし、二〇二〇年。新型コロナウィルスによって、当たり前にあった日常が、笑顔が次々に奪われていきました。
緊急事態宣言による突然の休校。私たちはお世話になった先輩方にお礼も言えないまま進級し、短い中学校生活の約二か月を失いました。どこにも行けない、会いたい人にも会えない。そんな状況が続き、私は心にぽっかり穴が空きました。
初夏の風が吹く頃、授業が再開され、秋には「新しい生活様式」のもと、運動会や新人戦で競い合い、修学旅行で友情を深めました。文化祭やアンサンブルコンテストでは練習の成果を披露することもできました。
先生方や家族、地域の方々のおかげで、少しずつ目標に向かって努力できる日常が戻ってきました。
そこで、この少年式を機に、自分はこれからの人生をどう歩んでいくのか考えてみました。
人と接することが好きな私は、将来ウェディングプランナーになりたいと考えていました。でも、この一年、命の尊さと向き合う中で、自分の長所を困っている人のために役立てたいと思い始めました。
「オンライン」で人と繋がる「新しい生活様式」の中で、春の私のように虚無感に襲われたり、SNS上の誹謗中傷で傷ついたりした人に寄り添える仕事がしたいと、今は養護教諭になることを考えています。
作家の米澤穂信さんは著書『王とサーカス』で「悲劇は娯楽として消費される」と言っています。私は、誰かの悲劇を娯楽として消費したり、観客になったりせず、命に対して常に責任のある行動のとれる大人になりたいです。
今、私たち二十九人は、それぞれが夢を持ち、その実現に向けて日々努力を重ねています。当たり前だと思っていた日常が急になくなる、それを経験した私たちは、我慢と忍耐を知っています。
これを強みとして、今ここに、命を重んじ、自分の言葉と言動に責任を持ち、希望溢れる未来に向かって努力し続けることを約束し、誓いの言葉とします。